Amigos No.83-3
2009年4月
岡田 勝美
≪ 鍵社会〜ペルー ≫
ペルーは鍵社会でもある。一家の主は家を出る時、おびただしい数の鍵を持って出かける。鍵が多い原因のひとつは日常的に泥棒が多いことだ。そのため入口
のドアはたいてい2重ドアになっている。ひとつは頑丈な木のドア、その内側に鉄格子のドアが一般的だ。アパート(日本で言うマンション)の場合、上層階級
の建物ではエレベーターの扉にも鍵がかかっている。それにガレージの鍵とガレージに設置された物置の鍵。これだけでも、もう5つだ。
しかし、鍵を必要とする最大の要因は別にある。それはお手伝いさんの存在だ。家主はお手伝いさんに全く信頼を置いていない。長年住み込みで働いているお
手伝いさんでさえ、ごく稀な例を除いてそれは変わらない。人種的な偏見も手伝い、そもそも階層を超えた信頼関係は肯定できないのだ。しかし、一方では家事
の一切を任せ、家中の掃除をさせるには、重要なものを保管する場所に鍵をかけておかなければならない。
そういうわけで、机の引き出し、棚、サイドボードなどあらゆるところに鍵が付いている。さらに、家を出る時は少なくとも主寝室と家族用のシャワー室にも
鍵をする。
いずれも留守中にお手伝いさんに絶対入られたくないスペースとして〜
≪ 冷蔵庫にも鍵 ≫
ペルーで家を借りる時、家具付きがほとんどだ。防犯上の理由もあって少し高級なアパートを選んだ。契約が終わって家主から鍵一式を渡される。20個ぐら
いある。最初に家主から説明を受けるが、とても覚えきれない。よく使う鍵にはその場所の目じるしがついているが他はわからない。
引っ越しを済ませて落ち着いたころ電話をしようと受話器を取る。が、ダイヤルがない。頑丈な木で覆われ、横に鍵が掛かっている。これではかけられない。
20個の鍵の中からそれらしい鍵を見つけて木の覆いを開けるとダイヤルが現れる。なんとこれもお手伝いさん「対策」のひとつだ。家人が留守の時、お手伝い
さんが自由に電話をするのを防ぐためなのだという。近所のお手伝いさん仲間宛かもしれないし、地方から出てきているお手伝いさんの場合は、郷里の家族宛へ
の電話かもしれない。それをさせないためだ。アパートの脇の公衆電話や、街角の電話ボックスで白いユニフォームのお手伝いさんが電話をかけているのをよく
見かける。彼女らは働いている家から電話をかけることができないのだ。だが、これで驚いていてはいけない。家によっては冷蔵庫にも鍵が付いている。もちろ
ん家人が留守の間に中の物を飲食するのを防ぐためだ。
こうしてペルーは異常なほどの「鍵社会」となるのだ。
≪ 性悪説? ≫
とにかく徹底した“お手伝いさん性悪説”に立っている。
家主がお手伝いさんを信用しない根拠がなくはない。特に新しいお手伝いさんの中には犯罪に絡むケースもあるようだ。たとえば泥棒と結託して、家の様子がわ
かってきたところで、家人が留守になる時間帯を知らせ、空き巣の手引をする〜。あるいは彼女自身がある日突然、金目の物を持ち去って行方をくらます〜、な
どなどだ。
一方、本当に忠実なお手伝いさんの話も聞く。親身に子どもを育てた結果、子供が母親よりもお手伝いさんになついてしまった〜。家人から鍵を渡され、「誰
が来ても家に入れてはいけない。」と言いつけられる。たまたまその間に主人と無二の親友が訪ねてきた。
「ちょっと家に入れてくれ。」と頼まれるのだが、絶対に言いつけを守って入れなかった〜、など。
たしかに両方とも事実だろう。しかし、私には“お手伝いさん性悪説”は馴染めない。
16世紀の初めスペインからやってきて豊富な金を取り尽くすと、次は農園主として徹底的に先住民から搾取し、富をほしいままにしてきた。どんなに働いても
その報酬は期待できない状況の中で、農園主が見ている時は働き、後ろを向いているときは作業を怠るという知恵を植え付けてしまった。それは先住民にとって
は生きていくためにとる唯一の手段だったかもしれない。それに根深い人種偏見。それが現在の先住民の人たちをここまで追い込んだのではなかったか。
インカ社会の研究では、彼らはもともと勤勉で助け合いを大切にする民族だったというのが定説になっている。
時間や約束にルーズなこの国の上・中層階級の方こそ考え直したほうがいいのではないだろうか。
1年間、6回にわたってのこの連載は今回で終了となります。筆者の岡田さんは仕事をリタイア後、ペルーに渡り、日本語教育アドバイザーとして5年ペルーの生活を送られました。その中でのペルーの日常生活の様々な様子など、興味深い話を紹介していただきました。いかがだったでしょうか。 岡田さん、ありがとうございました。 次回からは、現在ペルーのリマで暮らしている女性に最近のリマからの情報を伝えていただく予定です。どうぞご期待ください。 |
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