Amigos No.85-2
2009年2月
岡田 勝美
≪階層社会〜ペルー≫
ペルー社会は階層分化の社会だ。そして階層はほぼ人種に直結している。
乱暴な分け方をすれば、上層は西欧系、中流はインディヘナ(先住民)と西欧のミックス、
下層はインディヘナとなる。
人口比では上層15%、中層と下層各40〜45%だ。
もちろん、それぞれの区分に明確な基準はない。また近年は各階層間が流動的になりつつある。たとえば西欧系の一部は経済的に余裕がなくなっている。失業率が高いこの国では職がない場合に糊口をしのぐ手段はさしあたりタクシーのドライバーになるのが一般的だ。そのタクシードライバーに最近は西欧系の男性をよく見かける。さらには西欧系で中年の女性ドライバーもいる。
各階層の内部でも程度の差はもちろんあって、ピンからキリまでだ。
ペルー社会を実質的に支配しているのはおよそ15のファミリーだと言われている。それが具体的にどの家族かはわからないが、とにかく雲の上に存在するらしい。それ以外の上層はたとえば邸宅とか所有する車の種類や台数、雇っている使用人の数などでおおよそわかる。上はあきらかに富裕層だが下は中流に近い。
中流は一応安定した職業につき、ある程度の収入を得ている層だ。ただ、この国には安定した職業や勤務先というものが少なく、転職も多いため状況次第では経済的に苦しい状態に陥るケースも少なくない。したがって下層階級との境界もあいまいだ。
下層階級は定職があっても低収入だったり、そもそも定職がない層で、その最下層は路上の物売り、物乞いということになる。
≪お手伝いさん≫
はっきりした階層社会ということは、言い換えれば最下層の人件費が安いということだ。
その極端に安い人件費が家庭の使用人「お手伝いさん」という存在を生み出す。
「お手伝いさん」は上層の家庭にはもちろん、中層の家庭の多くにもいる。そのほとんどが「住み込み」で、ごく一部「通い」のフルタイムや「パートタイム」のケースがある。仕事の内容は食事の用意から洗濯、掃除、子供の世話まで家事一切だ。戦前までの日本にも一部の富裕な家庭にいた「女中さん」と、ほぼ一致する。仕事で一緒だった日本語教師の日系人の主婦の方も「お手伝いさん」を雇っていた。日系人の中で高齢の方は実際に「女中さん」と呼んでいた。街中で看護士スタイルの、白か薄いブルーのユニフォーム姿の女性を見かけたら、それは間違いなく買い物やお使いの途中の「お手伝いさん」だ。
≪トイレとシャワー≫
ペルーの普通の家にはトイレとシャワーが必ず2つ以上ある。その一つはお手伝いさん用だ。階層意識に加えて人種的な偏見の名残が色濃いぺルーでは、日本の「女中さん」以上に差別する。そのためトイレ、シャワーは絶対に共用しないのだ。その多くは「住み込み」のお手伝いさん専用の小さな部屋に設置されている。もちろん家族用に比べて、ずっと小さく簡素だ。日本のマンションにあたる住居をペルーでは“Departamento”(デパルタメント)という。その“Departamento”にもトイレ、シャワーは必ず2つ以上ついている。
また、少し高級なデパルタメントでは、裏手にお手伝いさん専用の出入り口がある。いわゆる「勝手口」だが、家人は使わない。日本でマンション住まいの家庭にお手伝いさんがいる家はいったいどれくらいあるだろうか。
日本人がペルーで暮らしていくには、いささか意識の転換が必要だ。
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