Amigos No.84-2
2008年12月

日本人リマに暮らす(4)

〜タクシーA 料金前交渉制〜

岡田 勝美

 おもしろいのは料金が前交渉制。最初は交渉に苦労する。行き先を告げて料金を尋ねる。ドライバーが「6ソーレス」と言ったら、まずは「5ソーレス」と言うのが “正しい”交渉方法だ。そこからは50センチモ(1/2ソーレス)単位のせめぎ合いに入る。たいていは双方の中間で落ち着く。目的地までの距離、時間帯、その他の要素で結果は決まる。大きな要素は後ろに客待ちのタクシーがいるかどうかだ。他のタクシーがいればこっちは強気だ。値段が折り合わなければ後ろのタクシーに行けばいい。

ふっかけられても・・

 ただ、日本人と見ると高めにふっかけられる。一応“日本人は金持ち”と見られているからだ。我々には現地人よりもしたたかな交渉力が求められる。それがなければ少々割高な料金で涙をのむことになる。  ペルー人の場合でも服装で差が出ることがある。一般的にいい身なりだと高めだ。ところがそんな不利な条件をものともせずがんばる風景を見た。日曜日の昼下がり、おしゃれな服装をしたお嬢さんがタクシーを停めた。助手席の窓越しに交渉が始まる。

セニョリータ(娘さん)「ミラフローレスまで」。ミラフローレスはリマで一番のおしゃれな街だ。これから恋人とデートか、それとも買い物か。 ドライバー「5(ソーレス)」。 セニョリータ「3.5」。 とんでもない、という表情のドライバー「ノー!4.5」。 困った表情のセニョリータ「じゃあ4」。そして「私4ソーレスしか持ってないの〜」

これにはドライバーも返す言葉もなく、あきれつつも「乗れ!」とドアをあける。  そもそもこれから繁華街へ出かけるいい身なりをしたお嬢さんが4ソーレスしか持っていないワケがない。こんな見え透いたやりとりがリマでは成り立つのだ。

料金交渉にもメリットが

 苦労する料金交渉だがメリットもある。それはいったん交渉が成立すればあとはドライバーの責任だからだ。渋滞に遭って時間がかかろうが、回り道をしようが最初に決めた値段しか払わなくていい。日本の一部の悪質タクシーのようにわざわざ遠回りして、土地に不慣れな客から料金をぼることもない。逆にここでは一時稼ぎの、地理にうとい不慣れなドライバーがときどき意外な安料金を提示してくる。苦労して予想外に遠い目的地にたどりついたドライバーは言う。「思ったより遠かったからあと3ソーレスくれ」と。こんなとき折れてはいけない。「あんたが6ソーレスといったから6だ」で押し通すのだ。まあ、あんまりにもかわいそうなときは恩着せがましく1ソーレスぐらいは払ってもいいだろうが・・・。  リマ暮らしベテランの先輩日本人の体験談がある。ある時、ドライバーに『こんなに遠いと思わなかった。もう2ソーレスほしい』と言われ、彼はすかさず言い返した『あ、そう。自分はこんなに近いとは思わなかった』と。さすがだ!!

警官がタクシードライバー

 ペルーは公務員の給与が極端に低い。学校教師と警官がその代表格だ。 それを埋め合わせるためだろう、正規の職業のほかに二つまで職業を兼務できる。兼務といっても、もともと失業率が高く、まともな職に就くことは至難の業だ。そこでもっとも手軽にできるのがタクシードライバーということになる。  リマの中心部にある10階建てのビルの日系人協会は人の出入りも多い。正面の広場にはいつも客待ちのタクシーが何台かいる。その中にペルー陸軍の軍人がアルバイトでタクシードライバーをしている。たまたま真面目で親切なことから信用が厚く人気が高い。彼ではないが、一度リマの旧繁華街“セントロ”まで出かけた時、乗ったタクシードライバーの本業が警官だった。“セントロ”は犯罪多発のいわば要注意地区だ。そんなとき警官の運転するタクシーはなんとも心強い。降りる際にスリや強盗に遭っても即助けてくれるだろう。ちなみに乗車中いろいろ話を聞いていたら、その警官の二つ目のアルバイトは夜、バーでバーテンをしているのだと言う。そのバーにも一度行ってみたいものだ。


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